社内業務の30%削減を目指す!ナイルの生成AI活用をリードする「GAl Lab」って?
ChatGPTに端を発した生成AI(Generative AI)活用の波。技術的なブレークスルーで一気に実用化が進み、華々しい登場からわずか1年ほどでエコシステムが構築されつつあります。
ナイルではこうしたゲームチェンジの機運を敏感にとらえ、積極的に社内での生成AIの活用を模索してきました。
まずは各メンバーが業務の効率化をはかるべく、2023年3月に生成AIにまつわる情報共有を行う「GAI活用部」が誕生したのを皮切りに、同年4月にはDX&マーケティング事業部(DXM)で生成AIを活用した業務改善コンサルティングの提供を開始。さらに、社内の業務コスト削減を目指すプロジェクト「Nyle Generative AI Lab(通称:GAI Lab)」を立ち上げています。
そこで今回は、社内で生成AIによる業務改革プロジェクトを推し進めているGAI Labの現在の活動をフィーチャー。中心メンバーであるプロジェクトマネージャーの伊藤真二と、エンジニアの工藤択斗に話を聞きました。
コーポレート本部 Nyle Generative AI Lab
伊藤真二(いとう しんじ)
情報・報道番組を中心に放送作家やディレクターとして15年ほど活動し、その後、事業会社にてWebサイトの運用責任者を経て、2017年にデジタルマーケティング事業部(現・DX&マーケティング事業部)コンテンツユニットにジョイン。2019年3月に自動車産業DX事業部、2023年に社内制度を利用してコーポレート本部に異動。趣味はお笑い芸人さんとネタを作ること。
工藤択斗(くどう たくと)
2012年にエンジニアとしてナイルに入社。コンサルティング事業のアクセス解析やコンテンツ管理のツール開発に携わった後に退職。起業し受託開発や飲食店立ち上げなど経験し、2017年にナイルへ再入社。電子コミックサービス立ち上げの開発責任者などを経て、現在はVPoEとしてエンジニア部門の責任者を務める。
目次
GAI Labが進める、戦略的な生成AIの活用推進とは?
──ナイルでは「生成AIを活用する」という概念は浸透してきている感じがしますよね。主体的にツールを導入して、業務改善に役立てている雰囲気は伝わってきます。
伊藤:ナイルのメンバーが生成AIの活用方法について自由に情報交換する「GAI活用部」の存在も大きいです。
この部活には、2023年4月の時点で全社員の9割近くが在籍していましたから、現場に即したいろいろなアイデアが生まれていると思います。
──ただ、お2人が中心となって動いているGAI Labは、GAI活用部とはまた異なる目的を持ったプロジェクトなんですよね。
工藤:GAI活用部のほうはあくまでも部活で、「生成AIのスキル開発に積極的に取り組んでほしい」という代表のメッセージに応じる形で誕生しました。
初めて生成AIに触る人にも具体的な活用イメージを持ってもらえるように、使ってみた人が事例を共有したり、業務上の課題についてソリューションを提案したりしています。
伊藤:一方でGAI Labは社内プロジェクトなので、戦略的に生成AIを業務に活用していき、業務改善やコスト削減などにより利益を最大化するというミッションがあります。
各事業部の業務コストを削減するために、私が実際に業務に入り込んで業務課題を見つけたり、事業部のメンバーからヒアリングしたりした業務の改善余地に対して、生成AIを噛ませることで課題を解消できるかどうか検討するところから取り組んでいます。
工藤:といっても、最近はGAI Labでの開発をGAI活用部のチャンネルでシェアすることも増えて、境目があまりなくなってきている気はしますね。
GAI活用部のメンバーからの依頼を受けて、アプリケーションの仕様変更をすることもありますし。
伊藤:あえて棲み分けをするなら、GAI活用部は生成AIの活用の仕方を考える個人や部署が起点となって、業務改善アイデアを発信する場。
GAI LabはLABが起点となって、生成AIで改善できる課題を見つけに行く感じです。
──業務に追われている当事者は潜在的な課題に気づきにくいですし、もし課題を感じていても、生成AIの知見がないとソリューションとして浮かばないかもしれないですよね。
伊藤:基本的には最初にPMとして課題のヒアリングをしますが、実際に業務に触れてみると、ヒアリングで出てこない課題が多いと感じます。当事者ではないからこそ気づける課題も多いですね。
GAI Labを介して本質的な業務改善の糸口を探る
──伊藤さんが見つけた課題について、開発が必要なときに工藤さんにつないでいくのが基本形ですか?
工藤:あんまりガチガチに決めてはいないので、各々が窓口になって動いている感じはあるんですが、PMとエンジニアでタッグを組んで進めるような案件も出てきつつありますね。
伊藤:事業部側から現状をこうしたい、ああしたいって話は意外と出てくるものの、そこに生成AIの開発リソースを注ぎ込んで本質的な課題解決になるのかってところの見極めも大事で。
実際、エンジニアに開発を依頼せずとも、外部の生成AIツールを見つけてきて、それを利用すれば解決する場合もありますし。
なので、私が受けた案件も相談の段階で工藤さんに入ってもらって、生成AIで解決するのが果たして最善なのか、開発目線で客観的に検討してもらうようにしています。
工藤:話を聞いてみると、これは事業部の中で解決したほうが早いなって課題も結構あるんですよ。
「Appliv」などを運営しているメディア&ソリューション事業部と、「おトクにマイカー 定額カルモくん」を運営する自動車産業DX事業部には専任のエンジニアがいるので、事業部内で解決できそうな課題に関しては、最短で最善の開発ができるように開発責任者へボールを渡します。
──そういう交通整理的な動きもされているんですね。でも、この業務を改善したい!と思いつつも、どうしたらいいかわからないケースはあるので、そうやって対応を判断してくれるとありたいです。
工藤:そうですね。一方で、人事本部では採用候補者リストの自動生成ツールを開発したんですが、ここでは部内で積極的に生成AIの活用を進めていて、僕らのサポートが必要なタイミングで声をかけてくれました。
伊藤:人事本部は特に積極的ですよね。生成AIを適切に活用するスキルを評価する目的で、採用応募の履歴書作成でも早々に生成AI活用を許可していましたし。
工藤:人事本部のメンバーがChat GPTでPythonのコードを作成して、スカウト業務の一部を自動化する仕組みを作っていましたからね。
GAI Labが関わる前に、部署が主体となって生成AIによる業務効率化を実現しているのは理想的な形だと思いました。
──GAI Labでは、コンテンツ制作のコスト削減にも取り組んでいましたよね。
伊藤:GAI Labとして最初に手をつけたのは、社内での記事制作コスト、工数の削減です。
ナイルには各事業部にコンテンツ制作を行うチームが複数ありますが、チームによってコストに対する記事制作本数に結構差があったんですよ。
そこで、最も少ないコストで最大量の記事を作っているチームを基準にして、まずは自社メディアの制作を行っているところを中心に、コストと工数の削減に取り組みました。
ここでは工藤さんに開発してもらうのではなく、生成AIでの記事制作が進んでいる編集部のプロンプトや運営方法を共有したり、今たくさん出ている外部のAI記事制作ツールを導入したりといったことを行いました。
ツールに関してはいくつか僕が使い倒して、SEOコンテンツの作成に適したものを選んでいます。
──ただ、現状の生成AIでは、求められる原稿の質と多かれ少なかれ差が出てくると思うのですが、その差分はどう埋めたのでしょうか?
伊藤:生成AIツールを使って出来上がった記事と、各チームの原稿の質に対する期待値を照らし合わせて、差分をどうやってカバーするかを各編集長と話し合いました。
結果として、ほとんどの記事制作を生成AIで代替してがっつりコストを削減できたところもあれば、編集者のコストは少し上がるけど、ライターのコストは大幅に下がったので全体のコストが下げられたというところもあります。
──なるほど。最終的にどれくらいのコスト削減に成功したんですか?
伊藤:目標は25%削減としていましたが、開始2ヵ月で26.9%(※)まで削減できたので、プロジェクトはひとまず終了となりました。
※生成AIを含めた記事制作費用。2023年2月対比。
現状では生成AIが出してくる原稿の質がネックになっている部分が大きいですが、今は日本製のツールが台頭してきつつあることで、日本語の細やかな表現を学習してくれるんじゃないかと期待しています。
このあたりはまだ伸びしろがあると思うので、引き続き取り組んでいきたいですね。
──現在進行中のものも含めて、手掛けているプロジェクトはいくつかあると思いますが、ここでご紹介できるものがあれば教えてください。
工藤:「定額カルモくん」のセールスからの依頼で動いたものがいくつかあって、ひとつはセールスの成約率の改善を目的にした取り組みですね。
セールスメンバーのスキルを底上げするには、トップセールスを基準にプロセスを標準化していくのが近道ですが、とにかくみんな忙しくて、なかなか教育の時間が取れないと。
それで、トップセールスが行った商談の音声データを自動でテキスト化して、商談時のトークの教材として使えるようにしました。
これは課題が明確で進めやすく、すぐに成果が出た事例です。
伊藤:また、現在進めてるものでは、セールスメンバーのこれまでの成果と顧客行動のデータを生成AIで分析した上で、相性のいい顧客セグメントを割り当てて成約率を伸ばしていくというプロジェクトも実現しそうです。
工藤:あと、社内のバックオフィスへのメンバーからの問い合わせ対応は、月間でもそこそこ工数を要していたのですが、これを生成AIが回答するシステム開発を進めています。
まだ道半ばですが、近い将来、メンバーの知りたいことは生成AIを介してすぐ解消されて、バックオフィスも対応工数が削減されてほかの作業に集中できたり、休みが取りやすくなったりすると思います。
生成AIによる業務改善コンサルティングと連携し、社外への技術提供も
──DXM事業部で取り組んでいる、生成AIによる業務改善コンサルティングサービスとも連携しているんですよね。これはどのように進めているんですか?
工藤:DXMの担当コンサルタントがクライアントに生成AIを使った業務改善を提案して、先方からテスト開発の発注をいただくと、僕のところに依頼が来ます。
その要件を見ながら、既存の生成AIツールを使うか、新規開発するかを検討して、どちらかで進めるというのが一連の流れです。
──DXMの担当コンサルタントに、クライアントからどのような相談をいただくのか聞いたのですが、明確な課題感を持ってご相談をいただくことは少ないようですね。
工藤:そうみたいですね。生成AIの活用に興味があるという企業や、いち早く生成AI界隈に着手してビジネスチャンスをつかみたい、といった比較的ふんわりとした相談が多いと聞いています。
そこから、生成AIを使ってどんなことができるのかについてご紹介しているようです。
──それくらいのざっくりしたご相談でもお気軽にどうぞ、ということですから、クライアント側のハードルも低いと思いました。
伊藤:業務におけるぼんやりとした課題感はあるし、そこに生成AIの技術を使えたらいいとも思っている。でも、生成AIで何ができて何ができないのか、まだイメージがつきづらいですよね。
ただ、ナイルではいち早く生成AI活用を進めていて、知見もだいぶたまってきています。
それを社内の業務に活かすだけではなく、クライアントの状況に沿ってソリューションを提供していくのはとても理にかなっていると思いますね。
──社内の取り組みが事業にも活かされている好例ですよね。では、今後GAI Labというプロジェクトはどうなっていくのでしょうか。
伊藤:人事本部の例が出ましたが、まさにああいう感じがGAI Labの目指すところです。
自分たちで考えて手を動かす事業部が増えていって、GAI Labが課題を取りにいく必要がなくなっていく──いずれGAI Lab自体が必要なくなるのが、生成AIの活用を推進している会社として最も理想的な形かなと思います。
工藤:僕も同じ気持ちですね。メンバー主導で、生成AIで既存業務を変えていく動きをもっと増やしていきたいです。
あとは、ITの知見がそれほどない人でも直感的に使えるようなインターフェイスの開発や、伊藤さんの話にあった日本語の生成AIとのタイアップなど、ナイルならではのケイパビリティを活かした新しいアプローチも考えていくつもりです。
※本記事は2023年9月25日に公開しており、記載情報は現在と異なる場合がございます。