ナイルを「理解する」から「感じる」へ。15年目のリブランディング
創業から15周年を迎えた2022年、ナイル株式会社はコーポレートリブランディングを行い、ロゴとコーポレートサイトを刷新しました。
変えること、変わっていくことを前提とした余白のあるロゴデザインは、現時点でのナイルの強みを示しつつ、このリブランディングがあくまで未来に向かうひとつの通過点であることをも表現しています。
今回は、リブランディングプロジェクトを担当したパートナー企業・STANDFOUNDATION(以下、SF)の洲脇孝俊さん・塩田篤史さんと、ナイル株式会社カルチャーデザイン室の宮野衆、峰尾優里に、ナイルのリブランディングの取り組みについて語ってもらいました。
目次
ナイルが内包するワクワクを、もっと広く伝えるために
――まずは宮野さん、今回リブランディングを行った背景を教えてください。
宮野:私がナイルに転職するとき、代表の高橋をはじめ経営陣とたくさん話をして、会社が目指す未来にすごくワクワクしました。
ところが、コーポレートサイトや採用ブログからは、私が感じたワクワク感があまり伝わってこなかったんですよ。情報をオープンに発信しているものの、会社の概要や方針の“説明”に終始していて、心は躍らない。
「ナイルの中の人」と話したときに感じる良さや価値を、もっとしっかり外部に伝えていかないともったいないと思いました。会社も急成長していて、事業ドメインも組織も拡大している中で、ナイル自体も大きく変わっています。
そこで、これから目指す未来を示し、導くためにも、コーポレートアイデンティティを変えたらどうでしょうって提案をしたんです。
峰尾:宮野さんが入社されたのは、ミッションとビジョンをリニューアルした直後(2021年9月)でしたよね 。
宮野:「幸せを、後世に。」のミッションと、「デジタル革命で社会を良くする実業家集団」のビジョンがありました。
どちらも奥行きがある言葉ですよね。だから、言葉に込められたストーリー性をロゴに反映させてブランドを再構築できたら、ナイルの大きな強みになるんじゃないかと思いました。
<ミッション・ビジョンについての代表インタビュー>
事業への本気が集う場所「ナイル」。未来を見据えてミッション/ビジョンを刷新
――ミッションやビジョンが反映されたコーポレートアイデンティティにしたかったんですね。
宮野:そもそもブランディングって、めちゃくちゃざっくりいうと「個性」を出して差別化を図っていくこと。もうひとつは、ステークホルダーへの「約束」や「宣言」といった側面もあると個人的には思っていて。
ブランドはすぐに確立できるものではなく、中長期的に取り組み続けることで出来上がっていくものだと捉えています。
事業やプロダクト、経営陣、従業員、それぞれが持つストーリーをステークホルダーへ届けて、ほかとの違いを感じてもらう、個性を知ってもらうこと。それがブランドイメージにつながっていくんだと思います。
――SFさんはこれまで数多くのクライアントの支援をされていますが、ブランディングについてどうお考えですか。
塩田:ブランディングって、定義がすごく難しいですよね。よく使われるけど、人によって解釈が異なる。
ほかにはない個性を発信することはもちろんですが、「ブランド」に「ing」がついているってことは、より良いものを目指して変化するし、その目指す方向に動き続けるってことだと思うんですよ。
だから、私たちが企業のブランディングを支援する際にも、まずは動き続けるための武器になるもの、鍵になるものを見つけるところから始めることが多いです。
洲脇:さっき宮野さんがおっしゃったように、僕らもよくストーリーとして捉えますね。ブランドとはあくまで受け手側にあるもので、企業が伝えるストーリーを受け手側がどう感じたのかによって、その企業のブランドイメージが形成される。
だから、僕たちが支援する際は、クライアントの中にあるブランドの核となる価値を引き出して、それをストーリーとして表現することを意識しています。
タッグを組んだのは、「この人となら仕事がしたい」と思ったから
――会社が持つストーリーを表現する――ナイルでもそれができそうだから、依頼を受けてくれたんですか?
塩田:依頼を受けた際、企業理解のためにナイルさんのサイトを見てみたんです。でも、正直いうと、ぱっと見て何の会社なのか、何をやりたいのか、はっきりつかめなくて…。
これはうまくできるかどうかわからないなと思いながら宮野さんと打ち合わせをしたら、すごく客観的に会社のことを見ていて驚きました。
記憶に残っているのは、最初にカルチャーの話をされたこと。カルチャーがまだまだ社内に浸透しきっていないから、企業の考えが表にうまく出し切れていない。より良いカルチャーを作り、浸透させるためにコーポレートアイデンティティを変えたいという話でした。
「僕らはこういう会社です、カッコ良くコーポレートサイトを作ってください」といった依頼とは一味違って、いっしょに課題感を持っていい方向を目指していけそうなところがおもしろいと感じたんです。
洲脇:僕らはやっぱり、何か課題があるほうが燃えるんですよ。技術的にもデザイン的にもよくできているサイトだけど、先ほどお話したストーリーを表現するところも含めて、構造的にさまざまな課題があって、宮野さんがそれを変えたいという時点でいっしょにやりたいと思いましたね。
それと、長いプロジェクトになるなら、やっぱりバイブスが合う人と仕事がしたい。直感ですね(笑)。
――バイブスが合ったんですね。宮野さん、複数社の提案を聞いた上でSFさんに決めたわけですが、その決め手は。
宮野:SFさんが一番ナイルの課題感に共感してくれているのが伝わったからですね。当然他社もいろいろとヒアリングはしてくださいましたが、今のサイトをベースにリニューアルするような提案が多かったように思います。
「もっと良くできますよね、ベースから変えましょう」といってくれる人と取り組みたかったので、私も直感で決めました。
ロゴは、未来の会社を体現するものに
――今回のプロジェクトは、代表・高橋へのインタビューからスタートしたそうですね。
塩田:社長の言葉を聞くと、「問いを持っている会社なのか」「答えを持っている会社なのか」がなんとなくわかるんですよ。
例えば、事業ドメインがはっきりしているような会社は、具体的なソリューションやサービスなど、明確な答えをすでに持っている場合が多いので、その事業をどうワークさせるかを考えればいいんです。
逆に、不確実な社会課題に挑んでいる会社なら、答えを探さなきゃいけないし、そもそもの問いの設定が重要。
ここで行った社長のインタビューを通して、ナイルさんはどちらかというと後者だなと感じました。最終的にどれくらいの規模になりたいのか、どんなイノベーションを起こしたいのか、世の中を変えたいってどのくらい本気で思っているのかを理解して、ブランディングの方向性を決めていった感じです。
――企業のトップが持つ問いや目指す世界観を理解した上で、ロゴに落とし込んでいったんですね。
洲脇:僕らとしては、コーポレートロゴは、ミッションやビジョンといった会社の理念体系がそのまま記号としてデザインされたものがいいなと思っていて。
それを軸に、ブランディングにかかわるすべては、同じストーリーとコンセプトのもとで形を変えていくものにしたいと考えました。
そして、現在地ではなく、会社の未来像を体現するものにしたかったので、今回、ミッションとビジョンはすでに定まっていましたが、その背景にある思いを社長から直接聞けたのはかなり大きかったですね。そこからいろんな着想が得られました。結果的に、4パターン提案させてもらったんですよね。
――それぞれで、全然印象が違いますね!
塩田:ミッションとビジョンを構成するワードも、角度を変えると違うものが見えてくる。それぞれ違う視点で生まれた意味をロゴとして具象化していきました。
洲脇:最終的に採用されたロゴは、シンボルが多様に変形する、まさに生物に近いイメージ。「1個のパーツが変化して、いろんな意味を作り出していく」というアイデアを塩田にもらって、生まれたのがこのロゴなんです。
――シンプルであるがゆえに難しそうですよね。
塩田:そうなんですよ。でも、いずれナイルさんが世界で戦うことを考えたら、基本となるシンボルはシンプルにしなきゃいけないと思ったんです。
それでいて、シンボルがいろいろな意味を持った記号に変化していく。変形したときの形やルールはナイルさんの未来を想像しながら、かなり練りました。
宮野:4つ出してくれた案、どれもハイクォリティでとても悩みました。選考基準はナイル・SFで相互に出し合い、向き合いたい課題からブレないようにしましたね。
最終的に、私の中で決め手になったのは「TRANSFORMATION-ARROWS(=変化していく2本の矢)」というコンセプトでした。また、新しく作ってくれたホープグリーンという鮮烈な色も良かった。
もし自分でロゴを作るとしたら、この色は選ばないんですよ。感覚として選べない。この違和感は、SFさんがわれわれには見えていなかった色を見せてくれたからこそ感じるものだと思いました。
このロゴなら、ナイルを未来に引っ張っていってくれる気がしたんです。
峰尾:想像力や好奇心をくすぐられるロゴですよね。このロゴを起点にコーポレートサイトを作っていくと考えたときに、限りない発展性と良い意味での流動性があって、作り手側に余白を託された感覚がありました。
「今やっていること」と「未来」を可視化
――ロゴが決まって、コーポレートサイトのリニューアルを進める中で、考えていたことはありますか。
峰尾:従来のコーポレートサイトは、マーケティング活動によるブラッシュアップや次々とサービスが生まれたことなどから、つぎはぎの修正を繰り返していました 。そのため、コーポレートサイトとして最適化されていない感じがあったんです。
それから、コーポレートサイトだけでなく、一部の事業部にとってはサービスサイトとしての役割もあるので、その両者としてのバランスをとりたかったのと、未来を見据えたコンテンツとして、サステナビリティのぺージや求職者様向けのカルチャー紹介のページを設けることもリニューアルの目的でした。
――会社のフェーズが変わってきていることから、コーポレートサイトに盛り込みたいことは多くあるけど、それを整理するのがたいへんだったのではと思いました。
峰尾:そうですね、社員や社員の家族はもちろん、各事業の顧客や採用候補者、地方自治体も含めたアライアンス先、投資家の方など、会社のフェーズも変わったことで多岐に渡る属性のステークホルダーがいるので。
そういった方々に向けた多くの情報をどのように整理して届けるか、ナイル全体としてどう見られたいか、長期的な変化に耐えうるか、それはどのような表現が相応しいかなど、根本的な検討要素も多かったですね。
洲脇:コーポレートサイトとして機能するっていうのが大前提なので、トリッキーさよりもパッと見て伝えたいことの軸と企業のアウトラインがわかるようにしました。また、後からロゴの成り立ちを知ったら、よりその理解が深まるようなデザインを意識しています。
――特にトップページは、ナイルがどんな会社なのかがひと目でわかるようになりましたね!
洲脇:僕らが最初にサイトを見たときの違和感を消すというか、どんな会社かわかるようにすることにはこだわりました。
強みであるデジタルマーケティングで一括りにせずに、いい意味でさまざまな領域に広がっていくことをわかりやすく打ち出したかったんです。
峰尾:旧サイトを作った当時のナイルは100名くらいの規模だったので、それぞれのこだわりをインストールしやすかったと思うんですよ。でも、今はそれぞれの事業が成長して、事業部ごとの意志が育っているので、横串を刺して表現するのが難しかったですね。
SFさん、宮野さんが「あるべき姿」をずっと示し続けてくれたので、なんとかめげずにやれました。
塩田:僕らはこれからの変化とか未来を落とし込みたいけど、事業部の立場だとどうしても「現時点での最適化」を意識すると思うんです。
なので、全社として表現したいことと事業部のニーズをうまく融合させて、着地点を見つける感じでしたね。
――新しく作った、カルチャーとサステナビリティのページへのこだわりも聞かせてください。
峰尾:採用候補者とのコミュニケーションでも、やっぱりまだ「ナイルはロジカルな人が多い」「合理性を重視する会社」といった認識がまだまだ強いので、今大切にしている価値観や強みを候補者目線で伝えたいと思って、カルチャーのページを設けました。
サステナビリティのほうは、いろんな活動がそれぞれ点で動いていたり、社会へ貢献している点をうまく言語化されずに埋没していたりなどの課題がありました。
会社として方針を立ててしっかり打ち出せていない部分だったので、フェーズが変わる中で必要な要素だと考えて、経営陣に提案して入れることにしたんです。
――SFさんは、コンテンツを作る上で大事にしていたことはありますか。
塩田:サスティナビリティページしかり、自分たちを良く見せるためにとってつけたような言葉で塗り固めるんじゃなくて、なるべくナイルさんらしい決意表明、態度表明をすることがすごく大事だと思っていて。
ロゴのコンセプトである「TRANSFORMATION-ARROWS」を念頭に置き、変化が生まれていくような気配を意識しました。
洲脇:課題感は合致していても、カルチャーや広報を担う部署や人の熱意が弱かったり、クォリティを判断できる人がいなかったり、そもそもこういったブランディングの重要性を理解している人がいなかったりすると、人材や担当者を育てていくところからやらないといけないですよね。
僕らはいわば料理人。クライアントさんという素材次第で良くも悪くもなるんです。こういったリブランディングでは、変わりたいと思いながら変化を拒むケースも多いのですが、ナイルさんとはロゴ制作の時点で目指すところが共有できたのが良かったですね。
リブランディングは、2度目のスタートライン
――最終的には、ブランド特設サイトやコンセプトムービーなど、当初のスコープになかったご提案もいただきました。
洲脇:せっかく新しいロゴができたんだから、そこに込めた思いとかを表現する場所が必要ですねって話になったんですよね。で、ブランドのLPを作るなら、ロゴの魅力が伝わるようなデザインや仕組みを含めて僕らがやりたいと言ったんです。
塩田:設計思想をきちんと見える化することで、このプロジェクトのプロセスに絡んでない人も巻き込んで参加してもらい、理解度を深めることができたらいいなと。
宮野:本当にその通りですね。ブランドページのおかげで、ただ会社が一方的に主導しているわけではなくて、従業員みんなの思いが新たなロゴに込められていることを伝えることができました。
ちょっとクリエイティブなサイト、というだけでなく、いっしょに働いている人を感じられる芯の通ったサイトになった感じがします。
――冒頭で、ブランディングはずっと続いていくものだという話がありました。社内外へ浸透させるために意図していることはありますか。
宮野:社内イベントやTシャツなどのノベルティ、Zoomの背景画像など、タッチポイントは増やしてますね。
ロゴ自体のデザイン性が高いので、愛用したい気持ちにもつながりやすいと思うんです。ロゴの一部の曲線や色など、いろんなところで日常的にナイルを感じて、ナイルのストーリーが伝播していくようにしたいと考えています。
例えば、淡いターコイズブルーを見たら「あ、ティファニーだ」って思うじゃないですか。あれに近い世界を目指したいですね。
峰尾:もうすでに、街中でホープグリーンを見るとナイルだ!みたいな気持ちにはなりますよね。愛着を持ってみんなで育てていくと、その人の中にもブランドができていくと思っています。
今まで、会社の物を身につけるのに照れがあった人も、ノベルティTシャツは喜んで着てくれているんですよ。
洲脇:めちゃくちゃうれしいです。デザインが感覚に合えば、会社のものでも身につけたいなって思ってくれるんですね。デザイナー冥利に尽きます。
宮野:今、ナイルはブランディングのスタートラインに立ったところ。ここから、社員やこれから入社する人とひとつのブランドを創っていくために、みんなでいろいろ変えていくことが大切だと思うんですよね。変えていくことを許容してくれるロゴになっているわけだから。
楽しみながら変わっていける会社になるにつれて、私たちの思いや感覚がブランドに乗って社外ににじみ出ていくでしょう。あとは最初に言った「約束」っていうところで、相手が捉えるブランドを裏切らない組織やカルチャーを作っていきたいですね。
洲脇:数年後にナイルさんと仕事をしたとき、今思い描いている未来に近付いていて、ロゴが思ってもみなかったような使い方をされていたら幸せですね。
塩田:もう僕らの手の届かないところまで到達していて、全然違う形で触れる未来を楽しみにしています。