ビジネスマンが絶対に囲碁をやるべき5つの理由と、ナイル囲碁部へのお誘い(後編・こっちが本題)
ナイル株式会社 囲碁部 部長の土居健太郎と申します。前編の続きでようやく本題に入ります。
前編:ビジネスマンが絶対に囲碁をやるべき5つの理由と、ナイル囲碁部へのお誘い(前編)
歴代の武将や現代のトップビジネスマン、政治家の方々でも多くの人が囲碁を好んで嗜んでおられますが、自分自身も囲碁とビジネス、囲碁と経営には非常に多くの共通点があると感じており、囲碁について学ぶと「会社でいうとこのアレみたいなもんだな」と思うことがよくあります。
この後編では、「囲碁とビジネスの共通点」にフォーカスし、具体的な考えなくタイトルに5つと書いてしまった手前5つひねり出しましたのでそれらをご紹介します。
目次
1.「打ちたい箇所は山程あるが、打てる手は1手のみ」である
ビジネスにおいて、「全てに全力投球して全部で100点を取りに行く」というのはほとんどありえない話で、1手のみとは言わないまでも、その場その場で何に集中すべきかを判断しながら着手すべきものごとの優先順位をつけていく必要があります。
囲碁においてはお互いに「1手ずつ」しか着手できないルールがあるため、例えば
・次ここに打てれば相手の大石をまるごと殺せる(相手にとっての急所)
・次ここに打たれたら自分の大石がまるごと死ぬ(自分にとっての急所)
こういう箇所があればこれが最優先です。
ここで手抜きをするとそこで碁が終わります。このような「急場」が存在する場合、大きなところや魅力的なところではなく、まずはこの急場への着手を選択します。
そういう箇所(急場)がない場合には、「一石二鳥、一石三鳥となるような手を探して打つ」ことをこころがけろと教わってきました。
例えば、「既に生きることが確定している自分の陣地を広げる」のみを目的とした手は終盤で地の数を確定させていく「ヨセ」の打ち方であって、序盤~中盤では価値の小さな手になりやすいです。初心者はよくこういう手を打ちます。
一方で、「放っておいたら攻撃されてまるごと死んでしまうかもしれない自分の石から動き、活きのスペースを確保しながら、相手の死活を牽制しつつ相手の地を削っていって最終的には先手で生きる」ような手があるのであれば、それはその局面においては非常に大きな意味を持ちます。
(指導碁などで自分よりはるかに上手(うわて)の人と打つと、まさにそういう手を多く打たれます。急所が増え、対応におわれ、後手を引き、置き石のハンデをみるみる削られ、ちょっと気を抜くとあっという間に追い抜かれます)
このような感覚が囲碁とビジネスにおける最も大きな共通点と思います。
選択と集中、のような話にも似ていますが、注力すべきポイントを間違えて要(かなめ)となる箇所で大きな失敗をすれば全体が致命傷を負う場合もあります。
また「ある程度うまくいってるものをもう少しうまくやるための投資」ではなく「いずれ駄目になりそうなジリ貧の部署に大幅なテコ入れをしてふたたび成長曲線にのせる」とか「立ち上げ事業が将来更に大きく伸びるための先行投資をする」などのほうが投資の価値としては高い場合が多いでしょう。
囲碁の言葉では「大場より急場」「弱い石から動け」「厚みを囲うなかれ」などの話がこれに当たります。
2.冷静な状況判断ができる必要がある
囲碁では「形勢判断」といいます。局面として、「これはあとは流して打ってれば間に合っている(囲ってじゅうぶん)」という状況もあれば、「はっきり悪いからここからは無茶して強引な手を選択するか、難しい手を打って相手のミスが出るのを期待するしかない」という状況もあります。
前者の状況で変なリスクとって無茶な手を打って自滅するのはもったいないですし、後者の状況で手なりで打って足りなかった…では勝てる碁も勝てませんし強くもなれません。
囲碁では「目算」という作業があるのですが、これはこのまま局面が妥当に進んだときにどれくらいの陣地になるかを数える作業です。
以前、とある方に指導碁うけている際に「目算って皆さんどうやってるんですか」って聞いたときに「1,2,3,4,5,…って1つずつ見て数えます」「このへんがだいたい10目くらいかな…とか絶対やっちゃだめですよ」って言われて衝撃だったのを覚えてますが、つまり適当なドンブリ勘定するんじゃないよ、丁寧に数えなさい、ということですね。
また、目算以前に、「どの箇所がこの局面における要か」などという見極めが更に重要になります。このへんの石は捨ててもいい、この石はまるごと取られたら大きいから全部は捨てないけど軽く見て攻められたら一部を捨て石にして軽くサバく、ここを取られたらこの碁は終了だから最優先で全力対応する、のような見極めとも言えます。
これができないと1.の価値の判断ができません。ただこれを言葉で説明するのがとても難しいのですが、いわゆる「大局観」のようなものに近いものなんだろうなと思っておりますが、一方で「これが正解」というのを決めることも難しい話だとも思います。(で、偉そうに書いてますが自分は有段者とかいいつつこのへんについて「全くわかってない」と自信を持って言えます。)
これは経営においては、「ちゃんと細かく数字を見たて正しく状況理解した上で判断しろ」という話と、「どこが今の経営にとっての要所なのかを見極めろ」という話にあたります。
3.確実な利益の確保と、長期の可能性への投資のバランスを考える必要がある
ビジネスにおいて、目先の利益ばかり追求して長期的には事業が先細りしていく、ということもあれば、利益が担保されてないなか不確定な投資ばかりして全く事業として立ち上がっていかずCFが回らなくなる、ということもあるでしょう。どちらが良いも悪いもなく、どちらの側面もバランスよく大事にしていかないと長続きも大成もしづらい、ということは事実だと思います。
囲碁でもこの感覚が大いに当てはまり、個人的にはこれが囲碁の醍醐味だとすら思っています。
囲碁の用語では「実利」と「厚み」などと言われ、
実利… 確定地。◯目の地、として数えられる状態。
厚み… 地として数えられる状態ではないが、一定の高さを持った壁となり、攻撃に活用したり結果的に大きな模様を形成する材料になる。
という感じです。
これは実戦でもでてくる形ですが、例えばこの図では、白の左側が地としてほぼ確定していて白が得た実利の部分で、一方の黒はもたれかかる形で背中に壁をつくっており、囲っていないので「地」ではなく、しかし白から見て簡単に取れそうにない石(=ほとんど生きている石、強い石)となっており、こういう石の一団を「厚み」と呼びます。
実利についてはさておき厚みについてはちゃんとは説明できないんですが、これは経営でいうところの足元の確定利益と長期投資の感覚に近いかなぁと思います。
実利=確定地は例えば10~15目の地、となればそれ以上の発展もなければそれ以上大きく削がれることもありません。経営でいえば、安定成長軌道に乗っている事業の利益のような類のものです。囲碁は最終的には地の数で決まるので、実利の最大化を目指さなければならないのですが「地ばかり気にしていたらその間に相手がものすごく雄大な模様を形成していた」ということがあるのです。
例えばこんな感じ 。この部分だけを局所的に見れば、白が左右に実利で20目前後獲得している一方で、黒が左右にできた厚みを活かし、大きな黒の模様ができています。この黒がこのまま発展すればものすごく膨大な黒の領地が確定地として完成してしまいます。
ビジネスにおける長期投資は、大きく伸びる可能性もあれば、失敗して何の身にもならないかもしれません。
囲碁における厚みも同じ、とまでは言いませんが、「(上図のように)結果的に大きく発展するかもしれないし、上手に働きを消されて10目にもならないかもしれないし、まるごと取り込まれてマイナスになるかもしれない」という類のものです。この「厚みをどう活かすか」というのは囲碁初心者の最初の大きな関門になると思います。
その点では、1.の項目でも少し出しましましたが、「厚みに近寄るな」「厚みを囲うな」という言葉があります。
前者は、相手に厚みを活かした攻撃してくれと言ってるようなものだから。後者は、厚みの価値がもっとも小さくなる選択を自らしているから。と解釈しています。
前者については「相手との戦い」という文脈なので経営の話とは直結しませんが、囲碁でいえばこういうことを言っています。
こういう感じで、黒模様が大きくなることを恐れて下手に白が黒の厚みに近づくと
このように黒から挟まれ白が攻撃の対象になり、追いかけられます。
白もスペースがあるところまで頭を出せているので簡単に囲まれて取られるような状況ではありません。確かに黒の模様が大きくなることを制限して、成果をあげたように見えますが、実際のところ白は囲まれないように逃げているだけなので地が増えているわけではなく、逃げた先に大きな可能性があるわけでもなく、しばらくは追いかけられ攻撃される対象になります。かといって左側の黒の一団は取られるような石ではなく、白が逃げている間に黒の右側には大きな黒の発展の可能性ができており、ここを部分的に切り取って見れば白が苦しい状況になっています(自分にはそのように見えます)。
後者の「厚みを(小さく)囲うな」については「せっかく一定期間投資して土台ができて、腰据えてじっくり取り組めば大きく化けるかもしれない事業を、焦って短期の利益確保しにいった結果、発展性のないスモールビジネスになってしまった」みたいな話です。だから「厚みは厚みとしてじっくり活かせ」という話になるのです。
4.時には「手抜く」「捨てる」の判断も必要となる
手抜きとは、「やっつけ仕事をする」みたいに使われますが、もともとは囲碁・将棋が語源のようです。囲碁では「一見応じたほうが良さそうに見える相手の打ち手に応じず、別の箇所に着手する」みたいなときに使われます。
囲碁ではこの「手抜き」のタイミングの見極めもとても重要です。
「応じずに手抜いて相手に連打されるとキズが発生して損するけど、別に致命傷にはならないしこちらのほうが価値が大きい」みたいなところに着手したいときにはどんどん手抜きます。ただ、間違えると死活に響いて後手を引くなどするので、読みの力が弱い級位者や低段者はどうしても大胆な手抜きができず、上手(うわて)に対して遅れをとることが多いのです。
これは経営にも同じことが言えます。対処したほうが良さそうな問題、は会社内のあらゆるところで日々発生しているでしょうが、大きなダメージにはならないとか自然治癒が可能なものにまで都度全力で対応しようとすると、もっと価値の大きなところへの着手が遅れ、機会を失ったり大きなダメージを受けることにつながります。
同じく、「捨て石」という概念があります。
これは、「全部を守るのは大変だけど一部を生贄にして本隊はしっかり逃げたい」とか、「この場所にそんなにこだわりないから、全部はあげないけど一部は持ってっていいよ」みたいな局面で使われます。前者は要を活かすため、後者は対局観の中で軽く見ての判断、という感じです。
また、もっと大きなところで「まるごと捨てる」みたいなこともあります。「ここまるごとあげるから、代わりにオレはこっち全部もらうよ」「そこ守ってもたいした価値ないと思ってるからこっちの大きいとこ先に回るよ」みたいな選択です。
こういう大胆な選択ができるためには2.の形勢判断がかなり正確にできることが前提であって、そうでないと相手に50目与えて自分は30目得るみたいなしょうもない交換をすることになってしまうので、初心者や低段者だとこういう大胆な判断はなかなかしづらく、無難な手を選択することがほとんどです。
逆にアマの上位者やプロのレベルになると形勢判断がしっかりしてるので、終盤になって大きな石の取り合いが互いに発生し、ガラッと戦局が変わることも珍しくありません。
1.でも書きましたが「全部で100点とりに行く」が無理である以上、正しい形勢判断の上、こういう取捨選択の判断を都度入れていく必要があります。
5.「勝着」はなく、「敗着」がある
囲碁では対局の振り返りとして「この一手が敗着となった」という言い方をしますが、「この一手で勝ちが決まった」という言われ方はしません。
よく言われる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という格言がありますが、まさにこれと同じことを示しています。勝ちの理由を説明することは難しいが負けの理由は必ず説明可能である、ということです。
これは実際自分でもそう思うんですが、囲碁の終局後、負けたときに思うことは「あそこでめちゃくちゃ間違えた」「あそこさえ正しく受けられていれば」のようなことで、勝ったときに思うことは「あの人があそこでミスしてくれたからそのあと楽になった」「大きなミスせず打てた」のようなことです。たぶんレベルが低ければ低いほどそういう感覚が強いと思います。
少なくとも、「見事な打ち回しで相手を圧倒できた!」と思えることなんてほとんどありません。ミスが多かったほうが負けるし、あるいはより大きなミスをしたほうが負ける競技だと思っています。
ビジネスにおいても「必ず勝つ方法」というのはほとんどないように思います。結果的に大きく伸びてる会社を見ても、新しい事業の成功率はどれだけ良くても2~3割ではないでしょうか。あるいは一時期大成してもそれが長く継続しないケースも珍しくないと思います。ビジネスにおける大成功にはそれほど強い再現性がない場合が多いのだと思います。
しかし、「こういうやり方では間違いなく失敗する」「こうやれば大失敗は避けられる」はしっかり存在していると思いますし、それは過去の歴史の積み重ねによって証明されてきているはずです。
囲碁の定石や手筋しかり、ビジネスにおけるセオリーしかり、あると思うので、守破離というように「学べば知れるようなことは先に学んで知っておかないと損をする」のは何にしても共通していると思います。
以上です。いかがでしたでしょうか。「何いってんだか全然わからなかったけど囲碁面白そう」って思っていただけましたら幸いです。
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※本記事は2018年9月5日に公開しており、記載情報は現在と異なる場合がございます。