「UX5階層+2」でデザイナーのスキル構造を可視化。大事にしているのはユーザー中心のサービスデザイン

アプリレビューサイト「Appliv」、ゲーム攻略メディア「Appliv Games」、人気のマンガが読める「タチヨミ」など、さまざまなサービスを展開する、ナイルのメディアテクノロジー事業部(以下、MT)。MT事業ではデザイナーの役割として「機能を形にする」だけではなく、ユーザーと、テクノロジーやビジネスをつなぐサービス領域を考え、具体化する役割を求めています。
これまでも、デザイナーは必要に合わせてその役割をこなしてきましたが、事業部内のデザイナーとして「求めるスキルとは何か」「どのように評価すべきか」ということを明確にしていなかったことにより、デザイナーが進むべき道が見えにくい問題がありました。
その解決に乗り出したのが、2019年にジョインした事業本部 CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の山川 将司。山川が考えるMT事業部のデザイナーに求められるスキルとはなにかについて話を聞きました。
山川 将司(やまかわ しょうじ)
ナイル株式会社
メディアテクノロジー事業本部 CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)
2019年ナイル入社。紙媒体のデザイナーとしてキャリアをスタートし、ウェブ媒体のデザインも手がけたのち、事業会社へ転職。株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)や株式会社ABC Cooking Studio、KDDIコマースフォワード株式会社(現:auコマース&ライフ株式会社)で、ブランドの構築やリブランディング、デザイナーの人材育成などに関わった。
サービスを作るには、メンバーを起点に考えるチーム作りが必要
――山川さんが、デザイナーの人材育成や評価に携わるようになったのには、どういったきっかけがあったのでしょうか?
ネクスト(現:LIFULL)以降、事業会社に所属してサービスを考える側になりましたが、それ以前と比べてチームで働く機会が格段に増えました。それにより、私に求められる役割が変わったことですね。
受託会社でデザイナーとして働いているときも、チームで仕事に取り組むことはありました。とはいえ、当時のデザイナーの世界は職人気質で「一度言ったことは二度は言わない」なんてことも。何かをチームで作り上げていくにあたって、そうした育成のあり方にジレンマを抱えていたんです。
――チームで働くことが増え、具体的にはどんな変化がありましたか?
チームで「一緒に作っていく」環境が当たり前になったことで、一人でできることには限界があり、チームで円滑に進めるにはどうしたらいいか、の考え方へ大きく変わりましたね。
時間も人も限られている中で最善のものを作っていくには、メンバー間で補える部分とそうでない部分などのバランスを考えていかないといけないんです。価値観やスキルの多様性があるなか、一人ひとりの向いている方向をどのようにそろえるか。デザイナーとして今後どういったスキルが必要になり、何を伸ばしていったらいいのか。
デザイナーの長期的な育成や環境作り、評価をどうするかを考える機会が多くありました。結果、そうした業務を複数社で担うようになりましたね。
――その経験を踏まえ、ナイルにジョインしようと思ったのはどうしてでしょうか?
いちデザイナーからポジションは変化してきているものの、私はプロダクトを作ることに関わっていたい気持ちもあります。ナイルは自分たちでサービスを持ち、かつデザイナーのスキルや評価をどのようにしたらいいのかに悩んでいた。抱えている課題と私のこれまでの経験の活かし方がある程度描けたことで、ジョインすることを決めましたね。
デザイナーでもマーケティング視点が必要?その理由とは
――デザイナーと一言で言っても、業界や企業によって担当分野が変わります。まずはMTにおける「デザイン」について、教えてください。
MT事業における「デザイン」は「サービスデザイン」のことです。そこには、プロダクトの見栄えだけではなく、要件設計や情報設計も含みます。なので、ユーザー調査もすれば、市場のニーズも見ます。市場やユーザーを見てサービスの上流設計をし、プロダクトを設計し、デザインを作る。それを世に出して反応を検証し、検証結果を見て、ユーザーのニーズとマッチしているかを確認する。常にPDCAを回していきます。
こうした業務に関わるにあたって、私はMT事業部のデザイナーが持つべきスキルを、いわゆる「UX5階層」に、「ユーザー調査」と「市場での役割」を追加した内容で定義することにしました。
そうですね。ひとりのデザイナーがここまで手掛ける例は、それほど多くはないかと思います。それはやはり、MT事業における「デザイン」が「サービスデザイン」を指していることが大きいんです。そもそもナイルには、前提思想に「全員企画・全員自走(※)」の考え方があり、職種混合型のプロジェクト型組織で動きます。
新しいサービスをどんどん生み出して成長するには、ビジネスとしてマネタイズすることが求められます。目標や課題に対し、全員が当事者意識を持って行動することが大切になるわけですが、そのためにはデザイナーだからデザインだけすればいいわけではないんですね。デザインのスキルを有効活用するために、マーケティングの知識やGoogle Analyticsによる分析スキルなどが求められることもあります。
※職種関係なく戦略に基づくアクションの立案・協議を行う全員企画と、自分の役割と責任に基づき課題提議や継続改善を行う全員自走を求めるMT事業の運営方針
――スキルの範囲を定義するとしたら、どういったキャリアプランが想定されますか?
現状のスキルマップでは、UXデザイナーまでのキャリアを定義しています。
例えば、デザイナーからはじまりUIデザイナーを経て、UXデザイナーへ。ゆくゆくはCXデザイナーまで広げて検討するかもしれません。ステップアップするに従って、事業への影響範囲が広くなっていくイメージです。
――そうした環境でデザイナーとして働くにあたって、指針としているものはありますか?
MT事業部内のデザイナーが意識すべきことを、次の4つに落とし込んでいます。
これは順番も大事にしていて、まず初めにくるのが「ユーザーを理解」することです。サービスは相手があって初めて成り立つもの。自己満足のデザインではなく、伝える先があることを明確に意識してもらいたいんです。
次に、ユーザーが抱えている課題を解決へ導くためにも、私たちが提供するサービスを理解し、ユーザーが求めているコトへしっかり伝わるように表現する必要があります。
3番目にくるのが、サービスデザインを行うことです。ここで重要なのは、ユーザーがサービスを利用する際に、一つひとつ言葉で伝えるのではなく、ユーザーが直感的に利用できるようにすること。1と2を突き詰めることで、ようやくそれを実現できるんです。
最後に、ユーザーと向き合うことで、常にサービスには変化が求められることを知ります。そのような変化を単なる「修正」と思わず「進化」と捉え、デザイナーには思いっきり楽しんでもらいたいです。
デザイナーが見るべき先は、常にユーザーにある
――山川さんがCDOとして、現在注力していることにはどんなことがありますか?
こうした前提があるなかで、メンバーとも話し合いながら、デザイナーとしてのスキルマップ表や評価方法、目標の持ち方などを調整しています。
評価でいえば、デザイナーがユーザーから使いやすいと言われて喜べるような環境を作りたいと思っています。デザイナーは作る工程の中で、いろんな人から「こういう風にするといいよ」「こっちのが伝わるよ」と言われます。でも、上司や同僚からのそうした声は「デザインの評価」ではなく、自分の考えを広げるための「意見」の一つ。そこで右往左往する必要って、ないんですよ。
デザイナーが評価されるべきはユーザーから。褒められれば喜んでいいし、なにか指摘があれば、新しい視点や要望として受け止める。そうした捉え方ができる考え方にもっていきたいですし、そういう環境を作っていかないといけないんですよね。
――最後に、山川さんの今の業務におけるやりがいを教えてください。
取り組むべきことが多いから、やりがいだらけです(笑)。
これまでいろんな事業会社でサービスに携わってきましたが、長いことサービスを運営していると、変化を受け入れづらくなる傾向にあります。でも、たとえば「Appliv」はローンチして8年近くになりますが、成長するためにはどうしたらいいかを起点に意見がどんどん出てくる。
MT事業部のデザイナーを見ても、「雰囲気でかっこよさそう」ではなく、「これは何のために行う?」「この役割は?」と、“そもそも”の部分を考え、言語化してメンバー同士でしっかりと話し合う元々の文化があり、とても良い環境にあります。
現状にとどまらず、今あるサービスを伸ばしていくにはどうしたらいいか。成長思考を持って、メンバーと一緒に業務に取り組めるのは、大変さもありますが、面白いですね。